横浜薬科大学

ブログ

健康薬学科 香川聡子「環境化学物質によるTRPチャネルの活性化」

感覚センサー「TRPチャネル」が身の回りの危険を察知

皆さんは、トウガラシを触った手で目や肌をこすって、「痛い!」と感じたことはありませんか? 実はこれは、トウガラシの辛味成分であるカプサイシンに、「TRP(トリップ)チャネル」が反応(活性化)して起こる現象です。

「TRPチャネル」は、皮膚細胞をはじめ、私たちの体のほぼすべての細胞に備わっている「感覚センサー」です。そして、「TRPチャネル」にはいくつか種類があることが知られていて、それぞれが役割分担をして「温度刺激」と「化学刺激」を感じとっています。

たとえば、「TRP V1」は43℃以上の熱刺激のほか、カプサインシンや酸などによる化学刺激を痛みとして感じ取ります。「TRP A1」は、17℃以下の冷刺激で活性化し、アルカリ性の刺激やワサビ成分にも反応します。そのほか、ミント(メントール)やシップ薬(サリチル酸メチル)に触れたときの「スースーする冷たい感じ」もTRPチャネルの活性化によるものです。

このように、全身の細胞のさまざまな「TRP」ファミリーが温度変化や化学刺激に敏感に反応してくれているおかげで、私たちは身の回りの危険をいち早く察知して、生命を維持できているのです。

その一方で、近年は「TRPチャネル」の活性化が、体調不良を引き起こしてしまうケースが増えています。たとえば、化粧品や柔軟剤などの「香り成分」によって頭痛や吐き気、アレルギーなどの症状を引き起こす「香害」もそのひとつで、社会問題にもなっています。また、建材や家具、日用品などから揮発した化学物質が原因で起こる「シックハウス症候群」もおもにTRPチャネルの活性化が原因です。

私の研究室では、こうした環境中の化学物質が人に与える影響と、その影響の個人差について研究しています。一例を挙げると、TRPチャネルの活性化を促す酵素の量の個人差を調べることで、化学物質に過剰反応してしまう人(=TPRチャネルが活性化しやすい人)を明らかにする研究などです。このほかにも、学生たちと一緒にさまざまなアプローチでTRPチャネル活性化の謎に迫っています。

また、TRPチャネルの活性化を防ぐことができれば、「治療薬の副作用による痛みの緩和」も可能になるかもしれません。そのための基礎研究として、コンピュータ上のシミュレーションでTRPチャネルの活性化を阻害する分子の候補を探すことにも取り組んでいます。TRPチャネルの活性化をコントロールできるようになれば、病気予防や患者さんの治療負担の軽減にも貢献できるはずです。

自分なりの“やりがい”を求めて進路を決めてほしい

私の研究室では「化粧品」の成分を研究している学生が多くいます。最近はEUで化粧品の使用成分が厳しく制限されるなど、“化粧品が健康に与える影響”は世間の注目を集めているテーマのひとつです。

実は研究で一番難しいことは、最初のテーマを決めることだと思います。指示されたことを研究するのは簡単ですが、学生にはもっと主体的に研究に向き合ってほしい。いま世の中で何が求められているのかを感じ取って、それに自分の興味・関心を絡めて、自分なりの研究テーマを見つけてもらいたいですね。

ひと昔前まで、薬剤師に求められていたのは調剤作業が中心でしたが、近年は、在宅医療、地域医療が進む流れの中で、患者さんにひとり一人に寄り添い、コミュニケーションをとりながら継続的なフォローをしていく対人業務の重要性が増してきています。また、地域の薬局は、日常的な健康アドバイスを住民に提供して病気を未然に防ぐ「未病拠点」としての役割も求められつつあります。

いまは先端医療の現場以外にも薬剤師の活躍の場は広がっており、そもそも化粧品メーカーなどの企業に就職して、薬学部で学んだ知識を活かすという選択師もあります。可能性は無限に広がっていますから、学生たちには“自分なりのやりがい”を見つけて、その道に突き進んでほしいですね。そのサポートを続けていきます。

関連記事RELATIVE POSTS